ハンドメイド作品の値段を決めるとき、まず必要になるのが「1つ作るのにいくらかかったか」、つまり原価です。材料の種類が増えたり、販路が複数になったりすると、電卓やメモだけでは追いきれなくなり、原価計算のアプリを探し始める人も多いと思います。
この記事では、ハンドメイド向けの記録アプリを開発している立場から、原価と販売価格の計算式、ツールの種類ごとの向き不向き、アプリを選ぶときに見るポイントを整理します。iPhone で使えるハンドメイド向けのアプリも、ストアに書かれている事実をもとに比較します(当サイトのアプリ「原価帳」も含みます)。アプリの比較は iPhone 版が対象で、Android 版は扱っていません。
この記事で分かること
- ハンドメイドの原価と販売価格の計算式(計算例つき)
- アプリ・スプレッドシート・Web ツール・紙の向き不向き
- 原価計算アプリを選ぶときに見る5つのポイント
- iPhone で使えるハンドメイド向けアプリの比較(2026年10月時点)
ハンドメイドの原価計算の基本
原価の計算式
ハンドメイド作品1つあたりの原価は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
原価 = 材料費 + 人件費 + その他のコスト
| 費目 | 計算のしかた | 例 |
|---|---|---|
| 材料費 | 材料の単価 × 使った量を、材料ごとに足す | ビーズ・金具・布・糸など |
| 人件費 | 時給 × 制作にかかった時間 | 自分の作業時間 |
| その他のコスト | 1作品あたりにかかる金額 | 梱包材、送料の見込み、接着剤などの消耗品 |
材料の単価は「1個あたり」「1cmあたり」「1gあたり」のように、使う単位にそろえて出しておきます。まとめ買いした材料は、仕入れ値(送料を含めるかどうかも決めておく)を個数や長さで割ると単価になります。費目の分け方はハンドメイド原価計算で記録すべき項目一覧、材料費の按分はハンドメイドの材料費管理で記録しておきたい項目と按分の考え方で詳しく整理しています。
人件費を原価に入れるかどうかは、人によって考え方が分かれます。入れておくと「作業時間に見合った値段か」を確かめやすくなり、入れない場合は、利益の中に自分の作業代が含まれていると考えることになります。時給の決め方はハンドメイドの制作時間・人件費を原価に記録するも参考にしてください。
計算例(架空のピアス1ペア)
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| パーツA | 40円 × 2個 | 80円 |
| パーツB | 25円 × 2個 | 50円 |
| ピアス金具 | 30円 × 1ペア | 30円 |
| 材料費 | 160円 | |
| 人件費 | 時給1,000円 × 30分 | 500円 |
| 梱包材 | 1作品あたり | 50円 |
| 原価 | 710円 |
数値は説明のための例です。
販売価格の決め方は2通り
原価が出たら、販売価格を決めます。よく使われるのは次の2つの考え方です。
① 原価に倍率を掛ける
販売価格 = 原価 × 倍率
たとえば上の例で倍率を3倍にすると、710円 × 3 = 2,130円です。計算は簡単ですが、販売手数料がいくら引かれるかは、この式には入っていません。
② 手数料と利益の割合から逆算する
販売価格 = 原価 ÷(1 − 手数料率 − 目標の利益率)
この式は、手数料が販売価格に比例する場合(販売価格の◯%)で、手数料率と利益率の合計が100%未満のときに使えます。1件ごとに決まった額がかかる手数料がある場合は、その額を先に原価に足してから計算します。
販売手数料が仮に販売価格の10%、残したい利益を販売価格の20%とすると、710円 ÷(1 − 0.10 − 0.20)= 710円 ÷ 0.7 ≒ 1,014円です。切りのいい1,020円にした場合、手数料102円・原価710円を引いて、利益は208円(販売価格の約20%)になります。
手数料率は販路によって違い、改定されることもあります。また、送料にも手数料がかかるか、送料を買い手と出品者のどちらが負担するかも販路によって違います。計算に使う手数料率は、出品している販路の最新の規約で確認してください。 複数の販路で売る場合の整理はハンドメイドを複数販路で売る際の原価・手数料管理でまとめています。
原価計算のツールの種類と向き不向き
原価計算に使えるツールは、大きく4つに分かれます。
| ツール | 向いている人 | 気をつけること |
|---|---|---|
| スマホのアプリ | 材料を登録して使い回したい。作業場や外出先でも記録したい | アプリごとに、できることと料金の形がかなり違う |
| スプレッドシート(Excel・Google スプレッドシート) | 計算式や集計を自分で自由に組みたい | 材料と作品の表を関数でつなぐ作業が要る。表の作り方によっては、スマホから入力しにくい |
| Web の価格シミュレーター | 原価・時間・手数料を入れて、販売価格をさっと出したい | 1回ごとの計算向けのものは、材料や作品の記録が残らない。保存できるかはツールによる |
| 紙のノート | 作品数が少なく、計算の回数も少ない | 材料の値上がりがあると、すべて手で計算し直すことになる |
使う材料が少ないうちは、紙やスプレッドシートでも十分です。材料が増えてきて、「同じ材料を何度も入力している」「値上がりのたびに計算し直している」と感じ始めたら、アプリが役に立ちやすくなります。
原価計算アプリを選ぶときの5つのポイント
1. 材料を登録して使い回せるか、単価の変更が反映されるか
材料を一度登録しておき、作品ごとに選ぶだけで原価が出せると、入力の手間が大きく減ります。あわせて確認したいのが、材料の単価を変えたときに、その材料を使っている作品の原価も変わるかです。材料の値上がりはよくあることなので、ここが自動だと、価格を見直す必要がある作品をすぐに見つけられます。値上がりへの対応はハンドメイドの材料費が値上がりしたときの原価への反映方法で整理しています。
2. 人件費と、材料以外のコストを入れられるか
時給と制作時間から人件費を出せるか、梱包材や送料の見込みなど、材料以外のコストを原価に足せるかを確認します。材料費だけを足すアプリだと、実際の原価より低い数字が出てしまいます。
3. 販売の記録と手数料をどう扱うか
原価を出すだけでなく、売れた記録まで残したい場合は、販売の記録ができるかを見ます。さらに、販路の手数料や送料を差し引いた利益まで自動で出せるかは、アプリによって違います。自動で出せないアプリでも、手数料を差し引いた金額を記録する、手数料の見込みを原価に含めておく、といった使い方で対応できます。
4. 料金の形(月額か買い切りか、広告の有無)
無料で始められるアプリでも、続けて使うと有料になることがあります。
- 月額・年額のサブスクリプションか、一度払えば済む買い切りか
- 無料版の制限(登録できる件数、使える機能)
- 広告が表示されるか
原価の記録は何年も続けるものなので、長く使ったときの総額で比べるのがおすすめです。
5. データの保存先、アカウント、書き出し
- データが端末の中だけに保存されるのか、クラウドに保存されるのか
- アカウントの登録が必要か
- CSV などでデータを書き出せるか
クラウドに保存されるアプリは、機種変更や複数の端末で使うときに便利です。端末の中だけに保存されるアプリは、アカウントが不要なぶん手軽ですが、機種変更に備えてバックアップの方法を確認しておく必要があります。どちらの場合も、データを書き出せると、確定申告の準備やスプレッドシートでの分析に使えます(ハンドメイドの販売データをCSVで書き出す)。
iPhone で使えるハンドメイド向けアプリ(2026年10月時点)
ハンドメイド作家向けとして App Store に掲載されている、原価計算のできるアプリを3つ比較します。内容は2026年10月26日時点の App Store の説明文・課金項目をもとにしています。原価帳は当サイトが開発しているアプリです。 並び順は名前の五十音順(CreateMemo は「クリエイトメモ」として)で、おすすめの順位ではありません。
| CreateMemo | 原価帳 | サッカノカンリ | |
|---|---|---|---|
| 原価の自動計算 | 作品ごとに材料を登録して計算 | 登録した材料と使用量から計算 | 登録したパーツを選ぶと計算 |
| 人件費・その他のコスト | ストアの説明に記載なし | 時給×製作時間、梱包材・送料の見込みなどを原価に加算 | 制作時間のメモを残せる |
| 販売の記録 | 売上と手残りの利益を集計 | 売値・販売先を記録し、利益(売値 − 原価)を集計 | 販路ごとの手数料・送料・振込手数料を反映して利益を集計 |
| 在庫 | 材料の残量。制作中・完成在庫・販売済で管理 | 材料の在庫、完成品の在庫(販売で自動で減る) | パーツ・作品の在庫(販売で作品の在庫が減る) |
| 単価変更の反映 | ストアの説明に記載なし | 使っている作品の原価に自動で反映 | ストアの説明に記載なし |
| データの書き出し | PDF・CSV(Premium) | 販売記録の CSV、材料・作品の PDF、全体のバックアップ ZIP(すべて無料) | CSV |
| データの保存・アカウント | Premium でログイン・クラウド同期(iPhone と Web) | 端末の中だけ。アカウント不要 | ストアの説明に記載なし |
| 料金 | 無料。Premium は月480円・年3,800円 | 無料(新規は材料30件・作品10件まで)。Pro は980円の買い切りで無制限 | 無料。プレミアムは月300円・年3,000円 |
| 広告 | あり(Premium で非表示) | なし | あり |
料金や機能は変わることがあるので、使い始める前に各アプリの App Store のページで最新の情報を確認してください。
表の違いをまとめると、販路ごとの手数料まで自動で計算して利益を見たいならサッカノカンリ、iPhone と Web の両方で同じデータを使いたいなら CreateMemo の Premium が、それぞれの説明文に合っています。サブスクリプションや広告なしで、材料と作品の原価を記録したい場合は、原価帳が合います。
原価帳でできること
ここからは、開発者として原価帳について補足します。
- 材料:単価・単位・在庫数・タグを登録できます。単価を変えると、その材料を使っているすべての作品の原価が変わります(変える前に、影響する作品の数が表示されます)
- 作品:材料と使用量を選ぶと原価を自動で計算します。時給と製作時間から人件費を出したり、梱包材・送料の見込みなどを「その他コスト」として足したりできます
- 販売目安:原価に、設定した倍率(1.0〜5.0倍)を掛けた金額を表示します。上で紹介した①の考え方です
- 販売記録とダッシュボード:売値と販売先を記録すると、利益を月ごと・作品ごとに、売上の内訳を販売先ごとに確認できます
- お買い物メモ:在庫が少なくなった材料を一覧にします
販路の手数料を自動で差し引く機能はありません。 手数料を含めた利益を見たい場合の代わりの方法は2つありますが、どちらも欠点があります。
- 販売を記録するときに、手数料を差し引いた手取りの金額を売値として入力する → 利益は手数料込みで出ますが、売上の合計が実際の売上より少なく表示されます
- 手数料の見込みを作品の「その他コスト」に含めておく → 販路によって手数料が違う場合は、正確には扱えません
販路ごとの手数料まで自動で計算したい場合は、その機能があるアプリのほうが合っています。
無料版は材料30件・作品10件まで登録でき(新しくインストールした場合。バージョン1.2.0より前から使っている場合は、以前の上限のままです)、ダッシュボードや完成品の在庫、CSV・ZIP・PDF の書き出しも無料で使えます。原価帳 Pro(980円の買い切り、2026年10月時点)にすると、材料と作品を無制限に登録できます。データは端末の中だけに保存され、アカウントの登録は不要です。
もし使ってみた方は、App Storeのレビューに感想を残していただけると嬉しいです。今後の開発の参考にさせていただきます。
アプリを使い始める前に準備しておくこと
どのアプリを使う場合も、次の2つを先に決めておくと、初日から入力が進みやすくなります。
- 原価に入れる費目と時給:材料費のほかに何を原価に含めるか(人件費・梱包材・送料の見込みなど)と、人件費を入れる場合の時給を決めておきます
- よく使う材料の単価:「1個あたり」「1cmあたり」など、使う単位での単価を出しておきます。最初に登録する材料の一覧にもなります
まとめ
- 原価は「材料費 + 人件費 + その他のコスト」で考えると整理しやすい
- 販売価格は「原価 × 倍率」か「原価 ÷(1 − 手数料率 − 利益率)」で決める。手数料率は販路の最新の規約で確認する
- 材料が増えて、同じ入力や計算のし直しが増えてきたら、アプリが役に立ちやすい
- アプリは、単価変更の反映・材料以外のコスト・販売と手数料の扱い・料金の形・データの保存先で比べる
この記事の情報源
- 原価帳:App Store の掲載情報と、アプリの実装(当サイトが開発)
- サッカノカンリ:App Store の掲載情報 https://apps.apple.com/jp/app/id1553072300 (2026年10月26日確認)
- CreateMemo:App Store の掲載情報 https://apps.apple.com/jp/app/creatememo/id6499146861 (2026年10月26日確認)
この記事は、記録・整理の観点から情報をまとめたものです。価格設定や費用の扱い、確定申告については、税務・会計の専門家にご確認ください。内容の誤りや古くなった情報にお気づきの場合は、お問い合わせよりご連絡ください。
最終確認:2026年10月

